不埒な先生のいびつな溺愛
「しただろ」
「してません。先生が会社員とか、ちょっと想像できなかっただけですよ」
「馬鹿にしてんだろうが」
先生は腕を組んで、そっぽを向いてしまった。
先生が会社員として仕事ができたということなら、私は馬鹿にしたりしない。愛想笑いひとつできず、思ったことはすぐ顔に出る、そんな先生が少しは成長できたのかと嬉しく思うところだ。
でもよく考えれば、先生はその仕事を辞めて、小説家になるに至っている。
それなら、もしかして前職は良い思い出ではないんじゃないのか、と思った。それを聞き出すのは、無神経だったかもしれない。
でも、私の知らなかった先生の十二年間を、もっと知りたかった。
「馬鹿にしてないのに……」
ショボくれた私を見て、先生は大きなため息をついたあと、
「……塾講だ」
そう、ぽつりと、教えてくれた。
昔の先生を思い出した。二人で図書館に通った。必死で、二人だけで受験勉強をしたのだ。
志望校に受かった先生は、教育学部に行ったんだった。