不埒な先生のいびつな溺愛

「塾、講師……?」

それだって先生には向いていない。

先生が子供と関わる仕事をしていたなんて嘘みたいで、私はあんぐりと口を開け、それを手で隠した。

「当然俺に教師は無理だった。んなもん実習に行って一日で分かったからな。仕方ねぇからツテで塾講師になったが、全然向いてなかった」

「え、先生って実習にも行ったんですか!?」

「……あ?そりゃ行くだろ、教師になるつもりはあったんだから。教育学部はそういう段取りになってんだよ」

「先生は、本気で教師になりたかったってこと……?」

ここで先生は、心底鬱陶しそうに、私を睨んだ。

「……ナメてんのか。お前が言ったんだろ、美和子。俺は教師になれる、って」

「え?」

全然記憶にない。

『久遠くん』が教育学部を受けるのは、てっきり一番偏差値の高い志望校の中で、一番偏差値の低い学部だからだと思っていた。

確かに、学年で一番頭の良かった『久遠くん』には、いつも勉強を教えてもらっていた。その教え方は意外にも分かりやすくて、彼は物事を整理して相手に伝えるのが上手かった。

ただこのコミュニケーションの取り方のせいで、相手とそういう関係までたどり着かないまま、何事も彼が一方的に押し付けて終わってしまうだけ。

本当は教えるということに関しては、すごい才能の持ち主だと今でも思う。

「……ごめんなさい」

昔の私の、無責任な発言が、先生を苦しめてしまったんだろうか。

高校生の私たちは若かった。大人になれば分かる。
勉強ができて教えることが上手くても、教師だの何だのは、結局人に合わせることができなければ、苦しいだけなのだ。

それは才能云々ではない。

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