不埒な先生のいびつな溺愛
この先生の表情は、驚き?困惑?
でも眉を寄せている。それなら、怒り?

てっきり先生は返事を考えてくれているのかと思ったのだが、そのまま何も言ってはくれない。私の目をじっと見て、固まったまま動かない。

これまで、先生の不機嫌な表情など見飽きるくらいに見てきたが、今回の表情はいつものそれとは少し違って見えた。

「先生?」

時間が経つにつれ、苛立ちの表情から、その苛立ちの部分だけが、私からは見えない先生の奥底に深く沈んでいっているようだった。

そして私から見えるものは、脱け殻みたいな先生の綺麗な顔の中の、ぐつぐつと煮たった黒い影だけ。

「……何で、んなこと知りてぇんだよ。お前に関係ねえだろ」

ぼそりと、彼から絞り出された言葉は、表情のわりには敵意で溢れていた。

私が先生をバカにしたと思われたのだろうか。

「ち、違います。先生のお相手探しに関してどうこう言ってるんじゃありませんよ。私も個人的に興味があるんです。友人も何人かは婚活パーティーで出会った人と結婚していますから」

「だったら何だ!美和子、お前もあんなつまんねえ場所でつまんねえ男と結婚するって言うのかよ」

「そ、そんなこと言ってないじゃないですか……。私だって結婚とか考える年なんですよ。少しくらい興味があっても良いじゃないですか」

今度は、先生は苛立ちを前面に押し出して、身を乗り出して私を罵声し始めた。

先生が怖い。今の彼には、何を言っても、食い千切られそうだ。
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