不埒な先生のいびつな溺愛
難解なパズルを解いている気分だ。今度はどうして私から目を逸らすのだろう。

ソファーの上で、私は数センチ、逃げる先生に距離を詰めていた。

「ですから、もしかして私は恋愛に無縁な女だと思ってます?一生仕事ばっかりの女だって。こう見えても、人並みに恋愛とか結婚とかしたいって思ってるんですからね」

先生はこちらを見たまま動かない。

「私は先生みたいにモテませんから、いいなと思った人とすぐにお付き合いできるわけじゃないんです。婚活するべきなのは私みたいな女で、先生こそフラフラせず、普通に恋愛して結婚すればいいんですよ。その方がきっと早いはずです」

──ガタッ、と音が鳴った。

突然、先生が立ち上がった。目の前のテーブルがその衝撃で揺れて、カップたちもカチャンと振動した。

先生はなにも言わず、食器をさげ始めた。

私の前ではそんな生活感は見せたことがなかったのに、本当に突然のことだった。それに、私のカップにはまだ紅茶が入っていたのに、彼はそれを脈絡なく取り上げたのだ。

「先生?」

先生は私の話に相づちも打たずに、シンクに放り投げられた紅茶のカップとティーポットを勢いよく水浸しにし始める。

激しい水の音でさっきまでの話がかき消されていく。

「……美和子」

水の音でよく聞こえないが、先生はたしかに私の名前を呼んでいた。聞こえないのは分かっているようで、聞かせる気はないらしい。
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