不埒な先生のいびつな溺愛

「これ、腐ってますけど」

「捨てとけ美和子」

先生は箱を見ようともしなかった。

仕方なく、その可愛らしい箱は、中にある死んだケーキごとゴミ箱に突っ込んだ。

先生には罪悪感はないらしい。

涼しい顔で、リビングのソファーで画集を広げ出した。

誰の差し入れか分からないこのショートケーキはゴミ箱で、私のモンブランはちゃんと小皿に乗るのだ。

これは担当編集の特権?

ケーキの小皿と、ミルクの入った紅茶をリビングまで持っていった。

彼の前に綺麗に並べると、先生は横たえていた体を起こして、すぐに席についた。

「また女性ですか?」

スプーンを持った先生に、さっきのケーキの主のことを尋ねると、彼はあからさまに機嫌が悪そうになった。

「すぐ別れた」

「またですか?でもなにも、腹いせにもらったケーキ腐らせなくても……」

「ああ?腹いせじゃねえよ。俺はイチゴ食えねえのにあんなもん押し付けられたんだ。受け取っただけマシだろうが」

口も性格も良くない先生は、いただきますも言わずにモンブランを口に運び始めた。

その元彼女は、こんな先生が見たかったんだろうか。

ケーキを受け取ったあとそれを冷蔵庫の上に置かれてしまったとき、一体どんな気持ちだったのだろう。

甘いものが好きなのにイチゴが食べられないなんて、短い付き合いでは知らなくても仕方ない。

その彼女も気の毒だ。

もちろん先生のことだから、イチゴのケーキを買ってきたから別れることになったなんてことではないだろうけれど、その彼女と先生の関係は、その程度のものなんだと思った。

甘いものが好きな彼の唯一の苦手なイチゴを引き当ててしまう。

その彼女はこの先先生と付き合ったとしても、ずっと、そんなことが続いてしまったはずだ、と。

しかしタワーマンションに住む有名作家でありながら、この長身、美形。

どんなに彼が変人で、女性を取っ替え引っ替えする男でも、作家『久遠タカユキ』と付き合いたがる女性はいくらでもいるのだ。

その一人一人に同情なんてしていられないし、する気もない。

先生が彼女たちを適当に選んでいるように、彼女たちだって先生のことを顔とお金だけで選んでいるに違いないからだ。
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