不埒な先生のいびつな溺愛
先生の言葉は、それから一週間が経っても私の中から消えていくことはなかった。
『お前は生身の女じゃない』何をしていてもこの言葉が重くのしかかってくる。
久遠先生と私は全く交わることのない、違う世界の人間だと言うのなら、“久遠くん”と過ごしたあの彩られた日々もただの夢物語だったということになる。
私らこのまま、彼の言う小説の中に閉じ込められたままではいけないような気がした。私は私のリアルを作らなければ、ずっと惨めなままだ。
だから私も、結婚相手を探そうという気になったのだと思う。
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明朝、出社してすぐ、木島編集長に用事を持っていくついでに、進捗状況を聞いた。
先日手始めに、業界で顔の広い編集長に「婚活しようと思います」と簡単に伝えておいたところ、彼はすぐにレスポンスをくれたのだ。
「編集長、本当に探して下さったんですか?」
片手間で仕事をしながら、編集長は、ニコニコと私の話にも相づちを打った。
「うん。そんな結婚を焦ってるなんて思ってなかったよ。秋原さんとお会いしたいって人たくさんいるから、言ってくれたら今までもすぐ紹介できたのに」
私に会いたいなんて思ってくれている人がいるなんて、それだけでホッとした。
長年お世話になっている編集長のことは信頼しているし、彼の紹介してくれる男性にも安心感があった。
正直それが聞けただけで満足してしまったが、編集長は話をどんどん先に進めようとする。
「さあて秋原さん。誰がいいかな、誰がいいかな〜」
編集長の紹介の仕方はとても簡単で、まず私に携帯に保存されている写真を何枚か見せてきた。