不埒な先生のいびつな溺愛
伏見さんが王子様だとしたら、普段会っている久遠先生なんて閻魔大王だ。先生との会話は、いつも何かの裁きを受けている気分になった。

伏見さんとはそうではない。

『ご兄弟は?』『ご趣味は?』
『お仕事はどうですか?』

順にやりとりしていくありきたりな質問に、私はありきたりに答えていくが、伏見さんはそれがとても楽しそうだった。私もすごく楽しい。

品の良いレストランに到着し、飲み物をオーダーしたあと、伏見さんは落ち着かない私の手元を見た。

「秋原さん、爪、素敵ですね」

「え?あ……」

ここ何日かで、一番言ってほしい言葉だった。

嬉しい。やっぱり、気づいてくれる人は気づくものだ。

ありきたりな返答ばかりをしていたが、私は指先を褒められたことが嬉しくて、それに対する感謝を込めて、正直な気持ちを話すことにした。

「ありがとうございます。普段はしないんですよ。ネイルサロンに行ったのも初めてでしたし」

「へえ、そうなんですか?」

「ええ。でも、今日はその……伏見さんにお会いするので、少しその、舞い上がってしまったといいますか……」

伏見さんが明らかに赤くなったので、私も彼の瞳を見つめながら、ワインを飲んだ。
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