不埒な先生のいびつな溺愛
先生は駄々っ子のように口をへの字に曲げ、ソファーの背もたれにうなだれた。

こういう先生を見ると、高校時代を思い出す。

この表情は、昔の先生そのままだった。あの頃から先生はワガママで、人嫌いで、本の虫だった。

先生の世話を焼くのは嫌いじゃなかった。
昔も、今も。

私のことを生身の女じゃないなんて言わないでおいていてくれれば、こんな先生のことを可愛いとさえ思っていた。

「ネクタイも、少し明るい色味のものでお願いしますね」

「んなもん持ってねえよ」

「持ってましたよお。この間のパーティーでもしてたじゃないですか、ワインレッドの」

「ああ?知らねえ。無くした」

先生は放っておくと、一番手前にあるネクタイを着けてきてしまう。スーツとの色合いなどは考えてはくれない。

でも先生のスーツに秘めたポテンシャルは計り知れない。初めてスーツ姿を見たときは、うっかり惚れてしまいそうなくらいに感激した。

いつもだらしのないセクシーな格好をしているけれど、スーツを着たらそれが内側に凝縮されて、スーツのなかで爆発する。首や手首など、わずかに見える部分だけが、とんでもなくエロくなるのだ。

せっかくスーツが似合うのだから、と、私はいつも口を出してしまい、先生はいつもはそれを迷惑そうに聞き入れてくれていたのだが、今日はその気ではなさそうだった。
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