不埒な先生のいびつな溺愛
しかし私は、先生のワインレッドのネクタイに金のタイピンをつけた貴公子のような姿を諦められず、「絶対ありますよ」と粘った。

「知らねえって言ってんだろ」

「はいはい。ぜーったいありますから。ちょっと見てきますよ。お部屋に入ってもいいですか?クローゼットは中ですよね?」

お部屋とは、寝室のことを言った。寝室は先生が頑なに私を入れてくれない、開かずの間だ。

なぜ入れてくれないのかは知らないが、このときも、私が寝室に入ってもいいかと言った途端、先生は目の色を変えた。

「ダメだ」

私はプッと頬を膨らませた。

「……いつも思ってたんですが、なんでダメなんです?」

私は勝手に入るつもりなどなかったが、一応立ち上がった。

私と寝るつもりがないからと言って、寝室への立ち入りを禁止する必要はないはずだ。今日という今日は、ここへ入ってみたい。

しかし、先生は、私が立ち上がったことで無理矢理押し入るとでも思ったのか、すぐに私を追って立ち上がる。

「ダメだっつってんだろ!」

──パシッ。痛い。
強い力で、手を掴まれた。

手を掴まれたはずが、私は足の力が抜けていき、ふらりとよろけた。先生の強い言葉が耳に響いた。

掴まれた手首から、今まで感じたことがなかったほどの先生の熱が伝わってきた。
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