不埒な先生のいびつな溺愛
どうしよう……。

さっきまでは目を逸らしてばかりいた先生が、今度は私の目ばかりを見ていた。こんな至近距離で見つめあったのは初めてかもしれない。

今日の先生は、息を飲むほど格好良くて、そんな彼に真っ正面から見つめられると、私もつい見惚れてしまう。

「先生……」

なんだか、私たちの距離は、この間から、どんどん近づいている気がする。

私の勘違いじゃない。難解な先生の態度は、雪のように徐々に溶けてきている。心が通じあっていると感じていた昔みたいだ。

強がりな先生がこんな風に情熱的な目をするから、私も簡単に、その熱気にあてられてしまう。

「先生……その、すごく、素敵です……」

「美、和子……」

ネクタイにあやかって、必要以上に先生に触れた。先生も、今日は戸惑いながらそれを受け入れてくれる。

先生の髪を耳にかけて、前髪も、きちんと彼の目が見えるように、手で綺麗に鋤いていった。

「……っ、美和子、あの……」

先生は瞳の熱はそのままに、上擦った声を出した。

どうしよう、止まらない。先生の照れて困っている顔に胸がドキドキして、もっともっと見たくなる。

先生……!

───ピリリリ ピリリリ

もう一度先生の耳に指が触れたとき、私の携帯電話が鳴ってしまった。
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