不埒な先生のいびつな溺愛

しかし、私のほうも、申し訳なく思ってはいる。

確かに、高校時代はずっと気にせず話していたのに、大人になって今さら敬語で話されたらむず痒くもなるだろう。

先生は神経質だし、私と話すたびに苛立っても仕方ない。

しかし先生には話していないが、経験上、私のような編集に対してプライベートと線を引けない作家さんがいることも事実なのだ。

それは色目であったり、下僕的な扱いであったりする。

そんな相手に対して「これは仕事ですから」と一線を引くには、普段から敬語を使って仕事モードになることが必須だ。

久遠先生にだけそれ以上を許したら、他にも許さなくてはならなくなるから、それはできない。

編集と作家の距離感をはっきりさせることが、私の仕事のやり方だ。

「先生。今のところ、そのお嫁さん探しは執筆に影響はないので問題ありませんが、メンタル面は大丈夫ですか?」

「あぁ?」

「色々な女性と付き合うことは、少なからずストレスになることもあるかと思います。相手に合わせなければならない場面もあるでしょう?」

先生の舌打ちが響いた。

「ねえよ。気に入らなきゃすぐ別れればいい」

“久遠くん”は昔からこうだった。

相手に合わせるということが大嫌いで、この凄まじいイケメン補正があったとしても、周囲から嫌われることが多々あった。

先生自身も気が合うと思える人が少なかったようで、当時、『久遠くん』のそばにいたのは私くらいで、みんな遠巻きに見ているだけだった。

しかし、不可解なのだが、女を取っ替え引っ替え、という癖は高校時代にはなかったはず。

お父さんの余命を盾にして自由奔放になってしまっているのはむしろ先生の方じゃないのか、と思うけれど、それを言ったら彼は本気で怒ると思うから、言わずにいる。

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