不埒な先生のいびつな溺愛
木島編集長に相槌を打ちながら、隣にいる先生の機嫌がまた悪くなってしまったことをひしひしと感じていた。

同時に二人の顔色を伺っている私は冷や汗が出てくる。

「編集長、なんだかご機嫌ですね。もうアルコール入ってるんですか?」

「そうなんだよ〜。さっき結構囲まれちゃってさ。あ、そうだ。秋原さんにスペシャルゲストが来てるよ」

「スペシャルゲスト?」

「伏見くんだよ。新人賞は三社合同でしょう?如月文庫の関係者だからね、今日来てるよ」

「あぁ……伏見さん……」

嬉しそうな困ったような、どちらとも言えない表情をしてしまったのに、編集長はさらにニヤニヤと笑いはじめた。

「ねえ、素敵だったでしょ?伏見くん」

編集長が私にそう言ったところで、久遠先生が目を細めて私を見た。
あまり先生には聞かれたくない話だ。

「そ、そうですね」

かといってここで伏見さんとは駄目になったとか弁解するのもおかしい。先生の前だし、変な話題は避けたい。

「お、噂をすれば向こうにいるよ。おーい!伏見くーん!」

しかし相変わらず空気の読めない編集長は、偶然お手洗いにきた伏見さんを呼び止めて、ここの輪に呼び込んでしまった。

伏見さんは向こうでペコリと頭を下げて、そしておそらく目的地だったお手洗いを通りすぎて、こちらへと来てくれた。
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