不埒な先生のいびつな溺愛
「木島編集長、お久しぶりです。秋原さんも、今日は一段と素敵ですね」

さすが伏見さんは、私とのことは微塵も態度に出さず、そつのない挨拶をしてくれた。

彼は先生のことも見て、「先生ですか?初めまして」と声をかけてくれたのに、うちの久遠先生はそれにまったく答えなかった。

それどころか、現れた伏見さんを敵意剥き出しの鋭い目で睨んでいる。

「伏見くん、こちら久遠タカユキ先生だよ。去年の新人賞の」

「ああ!すみません、思い出しました。去年はうちの社の人間もキャーキャー騒いでましたから。作品も拝見しています」

なぜか伏見さんに対して態度の悪い先生は、ついに彼の言葉にひと言も答えなかった。

私はさすがに頭が痛くなって、編集長と伏見さんが話し込んでいる隙に、先生にだけこっそり話しかけた。

「ちょっと、先生、相槌だけでも打って下さいよっ」

「……美和子、伏見って誰だ」

先生の機嫌はすこぶる悪いようだ。
声がいつになくどす黒い。

「ですから編集長が今言ってたじゃないですか、如月文庫の」

「なんでお前のこと知ってんだ」

「そ、それは……」

私が言い淀んだことで、先生はさらに機嫌が悪くなっていった。
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