不埒な先生のいびつな溺愛
紹介してもらった、なんて言いたくない。それに伏見さんとはうまくいかなかったし、そしてその原因は悔しくも久遠先生だったのだ。

「ねえねえ、ところで二人は……もう付き合ってるんでしょ?僕に報告がないんだけど?」

木島編集長がそう言った。
一番話題にしてほしくないことを、空気の読めない木島さんはやっぱり口に出した。

編集長の視線は、私と伏見さんに交互に向けられていて、久遠先生もそれに気づいて眉を寄せた。

私は固まってしまい、そしてさすがに伏見さんも気まずい表情を見せていた。

「つ、付き合ってないですっ」

私が事実を言い、伏見さんも苦笑いで頷いた。

「ええ〜、君たちお家デートまでしたのにまだなのぉ〜?付き合っちゃいなよ、お似合いだから。伏見くんったら奥手なの?」

「ははは、木島編集長、俺も今頑張ってるところですから、急かさないで下さいよ」

伏見さんはとりあえず私たちが付き合いを止めたことには言及しないことを選んだようで、私もそれに合わせることにした。

「そうですよ編集長。こういうのはプライベートですから、上司がうるさく言うのはセクハラです」

「ちょっと!秋原さんそりゃないよ〜」

顔に張り付いた笑顔で笑ってごまかした。隣にいる先生の顔を見るのが怖い。

先生には知られたくなかった。

私の男の人の話なんてしたことはなかったし、そもそも先生と再会してからそんな気になったこともなかったのだ。

私にも幸せな恋ができるってことを先生に見せつけたかったはずなのに、先生には何も知られたくない。どうしてだろう。
最初から先生は私のことなんて眼中にないのに、それでも私に恋人ができたら、私たちの距離はさらに開いてしまう気がするのだ。
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