不埒な先生のいびつな溺愛
「や、やだなぁ、先生。付き合ってないってさっき木島さんにも答えたじゃないですか」
「じゃあなんだ、さっきのは」
「ですから、お仕事でお会いする機会とかがあって、それで知り合ったというか……」
「あの男の家に行ったのか」
嘘が下手な私は、またそこで言い淀んでしまった。伏見さんの部屋に行ったのは事実だ。
そこで初めて、顔を上げて先生の顔を見た。
──えっ……
強い言葉で責め立ててくるから、てっきり怒っているのかと思ったのに、先生は真顔で、魂が抜けたように透き通った瞳だった。
まるで精気が感じられないくらいに、
「先生……?」
そばにあるトイレの出入りは激しくなってきて、周囲は決して静かではない。
たくさんの人がすれ違っていくのに、先生の目には私以外は何も映っていないようだった。
「……先生、どうしたんですか」
すると先生は突然、フイッと私に背を向けて、人の流れに乗ってトイレに入っていってしまった。
「先生!?」
先生にまで取り残された私は、しばらくその場で立ち尽くした後、とりあえずトイレの横の壁にもたれかかり先生を待つことにした。
先生は一体何を考えているんだろう。
私が先生に内緒で男の人と会っていたのが気に食わなかったんだろうか。四六時中先生の執筆に構っていられるわけはないのに、私が先生に顔を見せないでいると彼はいつも機嫌が悪くなる。
だから先生を差し置いてプライベートを優先させることは、先生にとったら面白くないのかもしれない。
でもそんなのはお互い様だ。先生だって、今日みたいに私にベッタリな態度を取るくせに、プライベートでは女の人と不埒な関係を持っている。
私は先生に何とも思われていないんだから、こんなことで怒られる筋合いなんてない。
「じゃあなんだ、さっきのは」
「ですから、お仕事でお会いする機会とかがあって、それで知り合ったというか……」
「あの男の家に行ったのか」
嘘が下手な私は、またそこで言い淀んでしまった。伏見さんの部屋に行ったのは事実だ。
そこで初めて、顔を上げて先生の顔を見た。
──えっ……
強い言葉で責め立ててくるから、てっきり怒っているのかと思ったのに、先生は真顔で、魂が抜けたように透き通った瞳だった。
まるで精気が感じられないくらいに、
「先生……?」
そばにあるトイレの出入りは激しくなってきて、周囲は決して静かではない。
たくさんの人がすれ違っていくのに、先生の目には私以外は何も映っていないようだった。
「……先生、どうしたんですか」
すると先生は突然、フイッと私に背を向けて、人の流れに乗ってトイレに入っていってしまった。
「先生!?」
先生にまで取り残された私は、しばらくその場で立ち尽くした後、とりあえずトイレの横の壁にもたれかかり先生を待つことにした。
先生は一体何を考えているんだろう。
私が先生に内緒で男の人と会っていたのが気に食わなかったんだろうか。四六時中先生の執筆に構っていられるわけはないのに、私が先生に顔を見せないでいると彼はいつも機嫌が悪くなる。
だから先生を差し置いてプライベートを優先させることは、先生にとったら面白くないのかもしれない。
でもそんなのはお互い様だ。先生だって、今日みたいに私にベッタリな態度を取るくせに、プライベートでは女の人と不埒な関係を持っている。
私は先生に何とも思われていないんだから、こんなことで怒られる筋合いなんてない。