不埒な先生のいびつな溺愛
「ならいいですけど。でも私、先生がお相手探しを始めてから、ここに来るたびにドキドキしちゃうんですよ」
「は、なんで?」
先生は珍しく目を真ん丸くして、スプーンを運ぶ手をピタリと止めた。
スプーンの上にはミニチュア版のモンブランが乗っており、一口ひとくち、ずいぶんと味わって食べているようだ。
彼のケーキの余り具合を見て、私は紅茶のおかわりを注いだ。
「美和子。答えろ。なんでお前がドキドキすんだよ」
ギシリ、とソファーが音を立てた。
先生は数センチ、私に近づいていた。
先生の良い匂いがする。
神経質な先生は、頻繁にシャワーを浴びるのだ。
朝と夜、それとは別に女性と会っているとき、そして女性が帰った後。
女性の痕跡と、浴室からのシャンプーの匂い、察しの良い私には、それで先生がシャワーを浴びた頻度を感じ取れた。
近づかれた数センチ、私は距離を取り直した。
「だってそんなに頻繁に女性を家に連れ込んでるんですから、もし鉢合わせになったらどうしようって思いますよ。ここへ来る前に、気を遣っていつも電話で聞いているでしょう?今はお一人ですか、って」
「……そんなことかよ」
そんなことではない、とムッとした。
この家のドアノブを掴んで開けたとき、もし綺麗な女性と鉢合わせになってしまったらと、毎回ビクビクしながらここへ来ているのだ。
別世界の美男美女カップルに対面し、場違いな自分を惨めに思うことは目に見えている。
先生は気が遣えない人だから、私と彼女が鉢合わせになったって動じないだろう。
「ああ来たのか、入れ」なんて簡単に済ませてしまいそうだ。
先生が、そこら辺をしっかりしてくれそうにないから、私の方で予防策をとっているというのに。