不埒な先生のいびつな溺愛
先生は携帯を弄りながら、私を置いて、さっさとトイレから出ていってしまった。

もちろん私はすぐに追いかけて、先生の後ろにピッタリとくっついていく。

入り口にいた木村くんに「ありがとう」とお礼だけ伝え、二人でその場を離れた。

人気のない階段へと歩きながら、久遠先生は携帯電話を耳にあてた。

病院からの、大至急の電話。私は嫌な予感がしていた。

きっとそれは先生も同じだ。いつも自分の感情優先の先生が、こうして何もかも後回しにして連絡しているのだから、先生だってきっと予感しているんだ。

「久遠です。……はい。はい。……分かりました」

話の内容は分からないけれど、もう電話は終わったらしく、先生はそのまま会場出口へと歩みを進めていった。
このままでは会場から出てしまうが、それだけ緊急だということは、まさか……。

「……美和子。親父の病院行ってくる」

やっぱり……。
白木山病院は、先生のお父さんのいる病院だ。

先生は何てことないようにそれだけ言うと、携帯電話をポケットに戻した。戻す前に、マナーモードを解除していた。

「あの、お父さんは、どんな……?」

「何も。病院に、大至急来いってことだけ。発作とも危篤とも言わねぇ」

「い、行きましょう!今タクシー回してもらいます!」

すぐに編集長にふたりで病院へ行く旨を伝えるため、携帯電話を出した。

「お前はついてこなくていい。仕事なんだろ」

しかしそう言って、先生は突っぱねる。
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