不埒な先生のいびつな溺愛
先生が、悪かった、と素直に言ったことに驚きを隠せなかったが、何に対して謝っているのかも分からなかった。
しかし先生が折れたおかげで、空気は少し和らいだ。
機嫌の悪くなった先生がすぐ折れるのは、私が相手のときだけだった。これも昔から。
「先生、そんな、片付ける私の手間なんかを惜しんでくれたんですか?もう、私なら全然気にしませんよ、こんなの朝飯前です」
「ちっげぇよ……そういうこと言ってるんじゃねぇ」
「先生?」
「……ちょっとは気にしろよ、美和子」
上目遣いの先生は、長い前髪の間から、これでもかという綺麗な目を覗かせていた。
先生は高校時代より数段格好よくなっており、あの頃でもギリギリ直視できていた程度のその綺麗な顔を、もう今は、正面から見つめ返すことはできなくなっていた。
整いすぎている顔が、何度もセクシーに“美和子”と囁くものだから、私だって緊張する。
たとえ昔から知っていても、だ。
むしろ、昔はもっと短かった髪型が、今では毛先を遊ばせる程度に伸びており(実際には遊ばせているのではなく、勝手に遊んでいる)、背丈も高校のときから数センチは高くなっている。
まるで別人だ。それが余計にドキドキする。
先生が表情を変えるたびに沸き起こるこのドキドキは、もはや生理現象だと思う。
「す、すみません」
「意味分かってねえくせに謝んな」
先生との会話は難解で、これでは花嫁探しなんて上手くいかないだろう。
おまけに先生自身も飽きやすい。
どんなに美人な女性でも三日でフッてしまうと噂になっている。
私はソファーの、先生の隣に浅く腰かけ直した。
そして部屋を眺めながら、そのイチゴの彼女がこの部屋に来た日の、彼女の動線を想像した。
そもそも先生は外でのデートが面倒だからすぐ部屋に誘ったんだろう。
そしたら彼女はノリノリでやって来た、と。
彼女はここで先生とどんなことをしただろうか。
玄関から入って、ケーキを渡して、先生はそれを冷蔵庫の上に置いて、そして……ベッド?すぐ?
きっと他に話すことも、やることも思い付かなかったはずだ。
不健康なセクシーを体現したような先生と、そこで絡み合って、その間に放置されたショートケーキは、きっと、じわりじわりと腐っていったのだろう。