不埒な先生のいびつな溺愛
──関わることはないと思っていた久遠くんと初めて言葉を交わすことになったのは、春が終わったころだった。

暑さもあり、クラスにいることが本格的に息苦しくなっていた私は、昼休みになると、ひとりになれる場所を求めて校内をさ迷うようになっていた。

見つけた北側校舎の空き教室。

そこは狭くて涼しくて、とてもちょうどいい場所だった。

そこで一人で英語の単語帳を広げながら、片手間でお弁当を食べることにした。

しかし卵焼きにかじりついたとき、教室の扉が開いた。

「あっ」

扉を開けた本人である、やけに背の高い男子生徒と目があって、私も向こうも、数秒固まった。

その人をじっくりと見て、卵焼きをゴクンと飲み込みながら、ああこの人は絵里がいつも話してい“久遠くん”だと思い出した。

「……ど、どうぞ」

思わずそう言って、ど真ん中の席に座っていた私はひとつずれた。

久遠くんは中に私がいるとは思ってなかったようで、「どうぞ」と言われたところで簡単には中に入ってこない。

「……いや、いい、アンタ、勉強中なんだろ」

久遠くんは勉強しに来たわけではないのだろうか。その答えは、彼の持ち物で分かった。

持っているのは、コンビニの袋に入ったパンと、一冊の本だけ。ここで本を読みながら、優雅な昼食なのだろう。

しかし私は、もしかしたらいつもここにいるのは彼のほうで、邪魔をしたのは私なのではないか、と、やっとそのことに気づいた。
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