踏みだして、いつか【短編】
……はぁ、またか。
ここは軽音部の練習部屋前。
部活の買い出しから戻ってきた僕──深谷伊月(みたに いつき)は、早速中へ入ろうとした、んだけど……。
「ねぇ、七瀬ぇ(ななせ)……」
ドアノブに手をかけ、暫し動きを止めた。
言うまでもない。中から聞こえてきた、甘ったるい女の声のせいだ。
……ったく。
僕は無意識にも、なるべく音を立てないようにしてドアを開ける。
「おい彩芽(あやめ)、作業はどうした」
「いーじゃん、せっかく誰もいないんだし~。ね?」
そっと中を覗いてみると案の定、男女二人きりの空間がそこにあった。