踏みだして、いつか【短編】
七瀬と彩芽。
二人とも、僕のバンドメンバーだ。
ボーカル担当の七瀬は、男の僕から見てもかっこいい。
切れ長の大きな瞳に、筋の通った鼻。
芸能人並のルックスだと言っても過言じゃないだろう。
しかも、常に学年1、2位を争うほどめちゃくちゃ頭も良いし、おまけに運動までできちゃうっていう……。
もちろん、音楽センスも抜群に良くて。
クールな見た目とは裏腹に、その歌声は熱く、心に響いてくるのだ。
才能のあるやつは羨ましいよ、ほんと。
……で、そんな七瀬に大事な作業を放りだして擦り寄ってるあの女は、ウチのキーボード担当。
口の悪い暴力女。
彼女を一言で表すとしたら、それが一番妥当だろ……いや、違うな。
やっぱり、“口の悪いマイペース女”にしておこう。
うん、その方がかなりしっくりくる。
だって。
“口の悪い暴力女”
その本領が発揮されるのは、なぜか僕の前だけなのだから。