踏みだして、いつか【短編】
「七瀬〜、こっち向いてよ〜?」
僕が入ってきたことには、一切気づいていないみたい。
彩芽は素っ気ないままの七瀬を食い入るように、そして愛おしそうに見つめ、優しく名前を呼ぶ。
いつもそうだった。
七瀬に冷たくされようがそんなの全くお構いなしで、彼女は七瀬に接近する。
それなのに、見慣れているはずなのに、なぜか心は苦しくて、胸にはチクリと鋭い痛みが走る。
小さな棘が心臓を突き刺すような、そんな痛みだ。
いつからそうなったかなんて覚えてない。
気づいた時には、もうそうだった。
僕は多分、彩芽のこと──。