踏みだして、いつか【短編】
「みんな、飯にしようぜ!」
買い物袋を握り締めたまま、モヤモヤとした気持ちを隠すかのように張り上げて言った。
「い、伊月。戻ってたんだ」
彩芽は僕に気づくと、すぐさま七瀬から離れて誤魔化すような笑いをみせた。
彼女は、七瀬への気持ちを僕に隠しているつもりなのかもしれない。
そんなことしたって、無駄なのに。
もうとっくに知っちゃってるんだから。
彩芽が七瀬に想いを寄せていることなんて。
「じゃーん。今日の昼飯はカレーだぜ。店のおばちゃんに勧められてさ、凄く美味しそうだったからこれにしたんだよ」
それでも僕は何も知らないふりをして、元気に声を飛ばす。
僕の手によって掲げられたカレーライス。
担任から呼び出しを食らってた岳が帰ってくるなり、それを一人一人に配っていった。
「うはー! おいしそうじゃん」
「だろ?」
ふと漏れた彼女の声に、僕はすかさず応える。
蓋を開けた瞬間、香ばしいスパイスの香りがふわりと宙を舞った。