踏みだして、いつか【短編】


……実際、無理して明るく振る舞うことにはもう慣れた。

だからたぶん、少なからずこうやってみんなで楽しく過ごせているんだと思う。


七瀬と、岳と……そして彩芽と。

このメンバーと過ごす日々は、ほんの小さなものだけれど“幸”に溢れている。

だけど。

そうであるからこそ、時に、どうしようもなく苦しくなるんだ。


堪らなく居心地が良くて、些細な幸福感を感じるあの一時と、胸にぽっかり穴が開いたような、激しく苦痛なあの感覚。

それが複雑に絡み合って、いつ爆発してもおかしくないくらい、僕の脳を酷く蝕んでいくんだ。



「いただきまーす」


そして僕は一口、カレーとともにその気持ちを喉の奥へ強引に押し流した。

< 8 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop