交際の条件
ふたりの結婚生活がどんなものだったのか、俺には分からない。


母が何を我慢して家庭を守っていたのか、小さかった俺には理解できなかった。



ただ一つ、母が言った一言だけは、いまだに俺の耳に焼きついている。



「私の人生を返してよ」



それは、不甲斐ない父に対して言い放った言葉だった。


だがその言葉は、幼かった俺の胸に深く突き刺さった。


生まれてきたことを母親に否定されたような気がした。




離婚後は、月に一度、母から電話があった。


7歳の俺は、少年と呼ぶにはまだ幼すぎた。


まだまだ母親に甘えたい時期だった。


でも、受話器を握り締めたまま 何も話せなかった。


学校のことや、友達のこと、話したいことは山ほどあった。



だが、自分を捨てた母への恨みが邪魔をして言葉が出なかった。


互いに言葉が出ない、無言の時間



今でも受話器を持つと、あのときのことを思い出す。


俺にとっては、嫌な記憶
< 23 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop