交際の条件
楽しそうに話をする奈緒を見ながら、俺は幸せな気分に浸っていた。



誰かを愛しく思う気持ちが、こんなにも心を穏やかにすることを、俺は初めて知った。



一時間ほど話をしたところで、俺はトイレに行くため席を立った。


壁沿いの通路を歩いていくと、ふいに腕を掴まれた。


ハッとした俺に、ホテルの制服姿の女が微笑みかけた。


「なんだ、脅かすなよ」


高校の同級生、井上美加(イノウエ ミカ)だった。


美加は専門学校を出たあと、このホテルで働いていた。



「ちょっと。最近 全然会いに来てくれないと思ったら、なによ あれ。新しい女?」


「お前に関係ないだろ」


「うわ。冷たっ」


「それより何でここにいるんだ? お前、確かベルガールだろ?」


「今は隣のラウンジの勤務よ。さっきから何度も合図送ってるのに全然気づかないんだもの。ぼーっと、のぼせちゃって、ほんと嫌になっちゃう」


「ハハハ。恋は盲目だよ」


「それ違うでしょ」


「とにかく、邪魔しないでくれよな。昔のことなんて喋るなよ。喋ったら二度とこのホテル利用しないからな」


「べー」

そう言いながら、美加は俺に向かって舌をだした。
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