交際の条件
奈緒が想っていた男は俺なんかではなく、石黒だった。


恋愛映画を見たり、俺と恋について語り合っているうちに、奈緒は石黒への想いを募らせていったに違いない。


夢の中で、石黒に振られたときのことを思い出していたのだろう。


あの涙は、淋しさの涙


石黒との別れは、彼女の中でまだ終わってはいなかったのだ。




俺は うぬぼれていた。



数多い女性との付き合いの経験から、俺が好きになれば、相手も俺のことを好きになるに決まっている。


そんなふうに考えていた。


自分が振られることなど想像もしていなかった。


奈緒が、俺のことを『お兄さんのようだ』と言った意味がようやく分かった。


彼女は俺のことを恋愛の対象とは見ていなかったのだ。


奈緒が好きなのは石黒晶。


そしてまた、石黒も奈緒のことが好きだった。


二人の関係を邪魔しているのは、奈緒の特別な事情。


それだけのことだ。



俺は奈緒との将来を夢見て、ひとり浮かれているに過ぎなかった。



改めてそのことに気づいた俺は、目を閉じたまま苦笑した。
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