わたしのキャラメル王子様
「じゃ、ナイスファイト期待してるね!」



京ちゃん早いよー。
姿消すのが早いし、
ゴング鳴らすのも早いよー。



「先輩、話しに来たんでしょう?」



おおぉ!向こうから攻撃してきたよ。



「えーっと。うん、見ちゃったもんね、昨日。お店で」



咲田さんの揺らぎのないまっすぐな視線からもう逃げられそうになくて、私達は新校舎と旧校舎を繋ぐ人気のない渡り廊下へと場所を変えた。



「救急車で運ばれたって、ほんとですか?」



彼女の悠君レーダーはだいぶ高性能みたい。情報が早いし、彼女はその理由にだってちゃんと心当たりがあるんだと思う。



「ただの寝不足みたい。あんな時間まで毎日バイトしてたとか、私全然知らなかったよ」



幼なじみなんてその程度なんだよね、結局。
なんだかへこむ。



きっといっぱいいっぱいだったはずなんだ。
それなのに、元来た階段を上って降りてまた上って。
お人好し過ぎるよ。
でもね、あのお母さん、すごく嬉しかったと思うんだ。




悠君は困っている人をほっとけないんだ。
他人の不安にすぐに気づいてあげられるところも、優しいところも、小さな頃から全然変わっていない。



そんな悠君のことがずっと好きだったんだなって、あの光景で痛いくらいに思い知らされてしまった。



「あの……ごめんなさい」



「なんで咲田さんが謝るの?」



彼女がうつむくと、長いキレイな黒髪がぱらりと頬に落ちて、かすかに睫毛が震えたような気がした。

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