わたしのキャラメル王子様
「あの、ちなみにお二人が今編んでるのって……?」
「あぁこれ?」
お兄さんは編む手を休めず、にこやかに答えた。
「悠介が必死こいてそうだったから師長さんと手伝ってんの」
「そか……やっぱり」
なんとなくだけど、悠君のじゃないかって予感があった。確かバスケ部は、大会が近かったはず。
隣のベッドのお兄さんは
(彼は大沢さんという、27歳の美容師さんらしい)
運び込まれた悠君の制服のポケットから大量の刺繍糸と、中途半端に編み込まれたものが何本も出てきたのを見て、手助けしてやらなくちゃという使命に駆られたみたい。
悠君があまりに無防備な寝顔で
あまりに一生懸命眠ってたから、って。
「絶対チームメイトのだと思ったんだよね。しかもこの束だろ?いったい何人分なんだよと思ってさ。きっとそのせいで寝不足だったのかなとか、もしかして急いでたりして?なーんていろいろ想像しちゃって……まぁ、起きたら驚かせてやりたかっただけ。まだ見せてないんだけどね」
大沢さんは足を骨折していて退屈なのも手伝って、勝手にガンガン編みつづけて今に至っているという。
途中、その話を聞いた師長さんも協力することになったんだとか。
大沢さんの読みはたぶん外れてない。
そう思ったら胸にちくりと痛みが走った。
お守りとしてきっとみんなに渡したいんだと思う。
つまり、たぶん。
次の大会に悠君は出ないってこと。