わたしのキャラメル王子様
8・わたしのキャラメル王子様

距離なんかに負けるわけがないと思っていたのに、早くも2年生の後半で頑張りが効かなくなった。



リア充のみんなが普通に登下校したり寄り道したりしてるのがうらやましかったり、これまでの生活が信じられないくらい幸せだったんだと気づいて愕然としたり。




そういうのが伝わってしまったのか、悠君はしょっちゅう電話をくれたし、友達との写真や動画なんかもたくさん送ってくれた。



パソコンのワンクリックで世界と一瞬で繋がることのできるこの時代に、マメに手紙だってくれた。



それはスヌーピーが釣糸を垂らしてる便箋。今流行ってる舞台のフライヤーの裏。それからニューヨーク図書館で買ったという天使のハガキ。
そこにある悠君の字と言葉でいつも胸がいっぱいになった。



「俺の代わりに抱きしめて!」とメッセージ付きで送られてきたマシュマロマンのぬいぐるみに「こんなのが悠君の代わりになるわけないじゃん!」とやけくそ気味に八つ当たりしたのはいつのことだろう。




最近のマシュマロマンは若干痩せた気がする。そう……たぶん抱きしめすぎた。



クリスマスには怠け者のサンタクロースの絵本を送ってくれたし、バレンタインデーにはお互いにチョコを送りあった。



少しでも私を寂しがらせないように、いろんな工夫をしてくれてるのがいっぱい伝わってきて、もうそのせいでせつなくなるくらい。



遠くにいる悠君に励まされて、寂しさなんかに負けるもんかって歯をくいしばってたら春になって、いつの間にか3年になってしまった。



それからすぐに夏が来て部活もすでに引退してしまい、いわゆる本格的な受験シーズンに突入。勉強も本腰いれなくちゃいけなくなった。



そんな日々のなかでときどき、急な熱を出すみたいに悠君が恋しくなることもあったけど、『寂しい』と言って困らせるよりは『寂しいから会いに行くね』って言えるようになりたかった。



だからお金を貯めなきゃという一心で受験勉強のかたわら時々バイトもしてる。まとまった額になるにはまだまだ時間がかかりそうだけど。



秋が深まり日の入りもどんどん早まって、もう季節は冬。風が頬を刺すとわけもなく心細くなる。



そんな時だからこそ家族の支えが必要なのに、ママはある日の休日。ほっこりしたい寒い朝にこう言い放った。



「じゃあパパんとこ行ってくるね」


思わずココアでむせそうになる。


「なんで今?」


「だってまたやっちゃったのよ、ぎっくり腰」


「また?うそでしょ?」



喚いたところでママは行く。動けないパパのもとへ。



「仕方ないじゃん。あれって繰り返すものだっていうし。それに受験ってのはね、最悪インフルエンザにかからなければ制したも同然なんだから」


「そんなわけないじゃん、それまで挫けずに最後まで腐らなかった頑張りやさんが勝者になるんじゃん。でもぼっちじゃ頑張れないよぉー」



泣きついたってマイペースなママにはきっと響いてない。


旅費のために未だに細々と続けてるバイトもお休みの特別な朝なのに……こんなのあり?


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