わたしのキャラメル王子様

「これから挨拶に来るっていうからケーキ買いに行ってくるね」


「もうこっちに来てるんだ?」


急展開すぎて逆に冷静になっちゃったよ。


「あんたほんとに呑気ね、早く着替えて片付けくらいしなさい」


ママは足取り軽く出ていったけど、私はまだパジャマ……ていうか今日は1日パジャマで過ごすつもりだった。


ベッドのうえでお菓子、ゲーム、漫画を満喫するっていうチートデイにしようと思ってたのに、まだまだお預けかぁ。


でもその子だって受験前に環境が激変するってかなりのストレスなはず。きっと緊張だってしてるはずだから、ちょっとでも居心地いいとこだなって思ってほしいかも。


悠君には事後報告になっちゃうな。
きっとびっくりするはず。でも実はもう知ってたりして。ママと悠君は仲良しだから。



ぐーたらはあきらめて、とりあえず着替えるかと重い腰をあげたらピンポーンと玄関チャイムが鳴った。


何忘れたんだろ。
ママはこういうとき、部屋に上がるのが面倒でいつもこうやって私を顎で使おうとする。


「何〜?どうせお財布でしょ?」



自称、できる娘の沙羅ちゃんはママのバッグを二個ぶらさげて玄関に向かってあげることにした。きっとどっちかに財布が入ってるもん。



玄関を開けたら冷たい風が吹き込んで体がぎゅっとなり、思わず目をつぶった。



「ちゃんとモニター確認しないと。無用心すぎ」


目を開けたらそこには白い息を弾ませてにっこり笑う男の子がいた。


「来ちゃった」


「……」


「待ちきれなくて」


「へ?」


おどろきのあまりフリーズ、という表現がいちばん的を得てるはず。


「反応なし?相変わらずひどいお出迎えだね」


言葉とは裏腹にその顔は嬉しそう。


「だって……ほんもの?」


「どうかなぁ、確かめてみる?」


目の前に恋い焦がれた人がいた。
悠君だ。
たぶん夢じゃない。



ひととおり驚いてから、自分が寝起きのままのだらしない姿ってことを思い出して隠れたくなった。


「ちょっと待って!着替えてくるから!」



とか言ってメイクもするつもり。一時間ほど私に時間を、女子タイムをください!



やばい緊張してきた。だってなんか悠君、前よりかっこよくなってるしキラキラ度が増してるし、朝の光が似合いすぎてるんだもん!




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