わたしのキャラメル王子様
で、帰宅するとほんとにママはいなかった。
元から猪突猛進な人だけど、それにしても早すぎない?
私にだって心の準備をする時間がほしかった。
「あっちから美味しいイカを送ります。母より」
テーブルにそんな書き置き。
特に書き置くことでもないような気がする。
それに私がほしいのはイカじゃないの!
覚悟を決めたり準備を整えたりする時間なのにさ。
とにかく帰って来たママを怒らせない程度には家をちゃんとしておこう。ご飯もなるべく作って食べようという誓いだけは立てた。
なんか……孤独、かも。
早々にひとりぼっちを実感してしまった。
寄り道とかこれからはできないな。
京ちゃんの誘いも断ってしまうことが多くなるかもしれない。
掃除、洗濯、炊事。
やることたくさんあるんだもん。
この3つに貴重な青春の一ページを費やすなんて……なんか私もしかして不憫なのでは?
今日は悠君も部活休みだって知ってたから、ほんとは一緒に帰ろうって誘いたかったけど、誘えなかった。
アメリカにいたときのこと、根掘り葉掘り聞いてしまいそうな自分が嫌だったから。
ふぅ、とひとつため息をついた。
いくらグズグズ言ったところで、魔法みたいにご飯は出てこない。
だから気持ちを切り替えて、洗濯機をスタートさせると、その合間で掃除機をかけた。エプロンつけて、せめてやる気出そう。
形から入るってきっと大事だもんね。
これくらいの家事はなんてことないって思わなきゃ。
ただ、帰宅してからこれをやるってめんどくさいな。
明日から部活でへとへとになって帰っても、ご飯できてないの?
お風呂わいてないの?
ママって私達が学校に行ってる間に部屋を掃除したり洗濯したり……買い物に行ってご飯の準備したりアイロンあてたり。
それを毎日欠かさずにやってくれてたんだなぁ。
いなくなってわかる、ママのありがたみ。