わたしのキャラメル王子様
「これ……着ていいの?」



「そのために脱いだんじゃん」



視線をそらして武骨にそう言い放つ悠君の横顔が少し赤くなっているような気がして……ドキドキしすぎて、
私、死んじゃうかと思った。



ビックリして、戸惑って、
でも嬉しくて、切なくて、いきなり苦しくなって、最後にはなぜか悲しくなった。



悠君が私に何を隠してても、それを一生教えてくれなくても、フィアンセがあっちで待っているとしても、いろんなとこで愛嬌ふりまいてる男の子だとしても。



悠君が好きだという気持ちにもう抗えそうにないって、はっきりわかってしまった。



バスタオルを巻いた身体に渡されたTシャツを着たら、それは大きくて、すごくあったかくて。



どこか懐かしいような、初めてのような、心が疼くような優しい香りがした。



丈は膝上でふわふわと揺れている。
ちょっと不安だったから、前屈みになって裾を引っ張ってみた。
ずっとずっと、ドキドキしたままで。



「先に上行って電気つけとくねー」



悠君の足音が階段を上っていったから、浴室を出て私も階段を上った。



「どんだけ怖がり?てかなんで俺は裸?なんかお仕置きみたいじゃない?こんなのまったくの想定……外」



部屋の前で必然的に悠君と向き合う形になってしまった。



「あのっ……ほんとに、ごめんね」



裾を引っ張って、そわそわ。
後ろも気を付けなきゃと、とにかくへっぴり腰で部屋のドアノブを掴んだ。



「ヤバい。どうしよう……歌丸師匠」



「は?」



「こういうときは桂歌丸を思い浮かべるものなの!!」



「はぁ?」



「そんな屈んだら見えるんだって!殺す気か!」



「えっ!あ?ごめんっっ!」



裾に気をとられすぎて、無防備になっていた胸元を慌てて隠した。



部屋に入ってすごいスピードで着替えると、悠君をほったらかしにして階段を駆け降りた。
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