わたしのキャラメル王子様
「とにかく今はバイトなんかしてられないんだって」
こっそり壁から顔を出して向こう側を覗いたら、王子は片手で乱暴に髪をかきあげて、その瞬間はらりと。
黒髪のウィッグが外れて、
キャラメル色の柔らかな髪が彼の頬にかかった。
外した眼鏡を胸ポケットに入れて、手に取ったスマホで誰かに電話をかけようとしている一連の仕草を、私はぽかんと口を開けて目に写しているだけだった。
「フリでもいいって言ったじゃん」
「期限はちゃんと守ったでしょ?」
「私の何がダメなんですか?」
「何もダメじゃないよ」
「じゃあちゃんと彼女にしてよ!」
泣きそうな顔でそう言ったのは
間違いなく咲田さんで、
ピアノ王子は
……悠君だった。
心臓が跳ねた。
それと同時にポケットのスマホが鳴り出して飛び上がってしまった。
焦りのあまりスマホを落としてしまい、それは二人の足元のほうへ、ツーッと滑っていった。
耳にスマホを当てていた悠君と目があった。
お互いに、魂を抜かれたような顔をしてたと思う。
「沙羅……なんで?」
「そっちこそ……なんで?」
悠君の足元で私のスマホがいつまでも震えていた。
こっそり壁から顔を出して向こう側を覗いたら、王子は片手で乱暴に髪をかきあげて、その瞬間はらりと。
黒髪のウィッグが外れて、
キャラメル色の柔らかな髪が彼の頬にかかった。
外した眼鏡を胸ポケットに入れて、手に取ったスマホで誰かに電話をかけようとしている一連の仕草を、私はぽかんと口を開けて目に写しているだけだった。
「フリでもいいって言ったじゃん」
「期限はちゃんと守ったでしょ?」
「私の何がダメなんですか?」
「何もダメじゃないよ」
「じゃあちゃんと彼女にしてよ!」
泣きそうな顔でそう言ったのは
間違いなく咲田さんで、
ピアノ王子は
……悠君だった。
心臓が跳ねた。
それと同時にポケットのスマホが鳴り出して飛び上がってしまった。
焦りのあまりスマホを落としてしまい、それは二人の足元のほうへ、ツーッと滑っていった。
耳にスマホを当てていた悠君と目があった。
お互いに、魂を抜かれたような顔をしてたと思う。
「沙羅……なんで?」
「そっちこそ……なんで?」
悠君の足元で私のスマホがいつまでも震えていた。