わたしのキャラメル王子様
「とにかく電話したら?きっと心配してるよ?」



「うん、でも……」



あなたのことなんて知らない。
そう言ってしまった。
思い切り手を振り払ってしまった。



あんな酷いことを言っておいて、図々しく電話なんかできるわけがない。



「とにかく、今日は帰った方がいいね。電話じゃなくてちゃんと顔見て話したほうがいいよきっと。京子には話しとくから」



「うん、そうする。雅ちゃんありがとう」



雅ちゃんの優しさに励まされて、精一杯笑ってみた。



雅ちゃんは途中お友達からお誘いが入って改札前で別れることになった。私は改札をくぐろうとして、やっぱりくぐるのをやめた。



大きな柱にもたれて空を見上げたら、夜が更けても街が明るすぎるせいか月も星も見えなかった。



知らない街、慣れない駅。
通りすぎるのは他人ばかりで、
夜の喧騒は私の不安を掻き立てた。



悠君はうちから何駅も離れたこんな賑やかな街に毎日通って遅い時間までバイトしてたんだ。



もしかしたら帰ってこれなかったあの日は終電を逃したとか、私に気を違ったとか、理由はそんなものだったかもしれない。



怖い番組があったあの日は週末だったのにうちにいてくれた。ってことは、シフトを誰かと交代してもらったのかもしれない。



学校でつねに眠そうにしてるのは、部活終わりや仕事終わりで1人黙々と宿題やテスト勉強をしてるからなのかもしれない。



もしかしたらものすごく頑張りやさんだったりして。
なんでもさらりふわりとこなしてたのは、努力の賜物だったりして。



だとしたら、私は悠君の何を見てきたんだろう。
なんてことを、しでかしてしまったんだろう。

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