わたしのキャラメル王子様
「大丈夫?なんもされてない?」



眼鏡王子のさっきの冷徹な目はもうどこにも見当たらなかった。
目の前で、悠君の優しい瞳がただ不安気に揺れているだけだった。



「……うん」



「はぁ、よかったぁ」



悠君は深いため息をついて一度脱力すると、今度は目を釣り上げた。



「バカ!何考えてんだよ?」



眼鏡をかけ直した王子が私をまっすぐに見下ろしてる。
それから不機嫌に、大きく息を吐いた。



「居場所わかったし、友達といたから大丈夫だろうと思って仕事に戻ったけど、やっぱ抜けてきて正解だった。てかさ、まっすぐ帰らなきゃダメだろ」



「だって、悠君に謝り……」



「何考えてそのスカート?短かすぎでしょ?覗いてくださいって言ってんのと一緒だよ?あとあんな店に来ちゃダメじゃん。しかもこんなとこでこんな時間にひとりで人待ち顔で……あーもう!」



焦って訳のわからないことを言ってる姿を見て、あぁやっぱりいつもの悠君だって思ったら張りつめていた緊張の糸が、ぷつりと切れた。



「……ねぇ、それいやなの。早く悠君に戻って?」



「あぁ、これ?沙羅までこんなのに騙されてんの?」



「ウィッグとか眼鏡とかピアノ王子とか……もうやなの。悠君じゃなきゃ、やだ」



「これは単純に補導されないためのギミックでしょ。店じゃ21歳って設定なんだよ?喋るとボロが出るから無口キャラで頑張ってんだよ、これでも」



「やだ!いつもの悠君に戻ってよ!」



思わず黒髪に掴みかかってしまった。



「いてて!引っ張んなよもー、外す、外すから!」



黒髪からいつもの髪色がこぼれたから、急いで眼鏡を奪うと、そこにはいつもの悠君がいた。



こんなにも私
悠君が恋しくて恋しくてたまらなかったんだ。



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