わたしのキャラメル王子様
「大丈夫、もう平気。電車いなくなっちゃうから、行こっか」



不器用に笑って立ち上がった私の手首を、悠君が掴んだ。



「どうでもいい、そんなの」



「やだよ、歩いて帰れる距離じゃな……」



いつものようにぼやいた私の唇を、悠君が塞いだ。



「なに?今の……」



「何って」



自分の唇に思わず触れてしまった。
感触が、ちゃんと残ってる。



ビックリして足がふらつくのを、背中の柱にもたれてなんとか立て直した。
同時にカーッと、全身が熱くなる。



「カラダが……こころを追い越しちゃった」



「なにそれ?」



「で、やっと今こころが追いついた」



「……意味わかんない」



「俺、今沙羅にキスしたいって思ってる」



真っ赤な顔で、みつめられてしまった。



「……さっきもう、したような気がするんだけど」



「だからそれは……気持ちより先に体が動いちゃって」



「はっ、初めてだったのに……」



「ほんと?マジで?」



子供みたいに嬉しそうな顔ではにかむなんて、ずるい。



「ねぇ、俺沙羅が好きだよ。何度だってキスしたい。ちゃんと付き合おう。俺じゃダメ?」



「そんな、急に1人で盛り上がられても……」



「急じゃない。ずっとちゃんと片想いしてたよ俺。知ってるくせに、沙羅の意地悪」



なんて言えばいいのか、わからない。



「だからはぐらかさないで返事して」



「えと、あの」



「俺だって初キスなんだかんな」



初めて見る、悠君の真剣な顔。



「ほら、答はイエスに決まってる」



流せるような空気はなくて
誤魔化すような余裕もなくて
うん、と素直に頷いたそのあと



柱の陰に隠れて、私達はこっそり
確かめるようなキスをした。


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