わたしのキャラメル王子様
「じゃあ沙羅は俺がそばにいなくても平気なんだ?」



「まぁ実際クラスだって離れてるし、学校での絡みだってそんなにないじゃん」



暗い夜を透かした向かいの車窓に私達が映っていた。今までとは微妙に違う、ちょっとぎこちない距離。それがすごく照れくさくて、くすぐったかった。



「でもこれからは体育祭準備でしょっちゅう顔あわすね」



「そうだね、忘れてた」



そういえばふたりとも実行委員なんだった。



「借り物競争でたまに意地悪なやつあるんでしょ?」



「あぁ、あれ?」



噂によると、ボックスのなかには『好きな人』ってカードが入っていることがあるらしい。



競技に参加する人数よりカードの方が断然多いみたいで、それを引く人が必ずいるわけじゃないから、学校の噂話のひとつくらいの感覚だった。



「もしそのカード引いたらまっすぐ沙羅のとこに行くから」



「えー、やだなそれ」



「やだとか言わない!いい?逃げんなよ」



ちょうど電車が地元駅に着いて、席を立つと悠君はそう言って笑った。



「バイトのことも咲田さんのこともちゃんと説明するから。沙羅が心配するようなことは何もないよ」



「……うん、わかった」



ずっとモヤモヤしてたから、その言葉にホッとした。ずっと悠君を信じたくて、信じられなくて苦しかったから。



「じゃさ。手、繋いでもいい?」



手を差し出した悠君の顔が、真っ赤だった。



「……うん」



目眩がしそうなほどのドキドキに耐えて、その手を取った。



「やった!俺ついに沙羅の彼氏になっちゃった」



「悠君、声おっきいよ」



数少ない乗客の何人かは、きっと寝たふりをしてくれてると思うんだよね。
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