恋愛取扱心得
「あ、和田さん。こんにちは : )
いま 出勤ですか?」
知っているけど、不気味に思われないように慎重に、偶然を装う。
「おう。今日はどんなん乗ってんねん?」
「これです」
昨日一生懸命磨いた爪を見せながら行路表を差し出す。ネイルアートは会社に禁止されている。
「余裕やな♫がんばれ。」
うん、今日も完璧だ。
王子こと、和田さんは先輩運転士。
わたしが車掌になる前、駅員をしている時に車椅子のお客様を乗せて、その場所を伝えに行った時に勝手に一目惚れしたのだ。
もちろん和田さんはそんなこと1ミリも覚えてない。
わたしは王子を追いかけて車掌になり、名札を見ていたので所属先は事前に調べられた。
人事の人と飲みに行き、王子と同じ部署を希望した。
ここまでは全て計算通りだった。
ここまでしたのに。
3ヶ月ほど"勝手に恋愛"していたけど、ある日雑草と薔薇の会話を聞き、"勝手に失恋"したのだ。
「和田、お前帰ってたんか。沖縄での結婚式、どうやった?」
「よかったですよ〜!海も綺麗でね。写真みます?」
ーーーーーえぇ。王子、結婚してました。