ア ヤ メ。

第一章






…………人の声が聞こえる
 


僕にとって、殺したあとの死体の観察は無くてはならない手順だ。




それを邪魔されるのは、癪に触って仕方がない。






「その人、私の相手」






少女のはだけた服から察する。

 


エンコー………。





別にそんな事を知ってもなんの足しにもならない。

今は人を絶命させたくて疼いているこの衝動を、人の命と引き換えに抑えたいだけだ。






「どうでもいいけど、一度に二人殺れるなんてツイてる」






男は心底幸せそうに微笑みかけた。

端正な顔が加担し、その恐怖を何倍までに引き上がらせていた。





「ラッキーガール





お好みの方法で殺してあげる」






大抵はここで逃げ出す。それを捕まえて殺すのが、男にとっては一番の至福だった。




少女が形のいい唇を動かす。





「ナイフ」






そう、静かに言葉を発した途端、男の表情が変わる。


今までにもこういう人間は居た。

死を恐れていない様に取り繕うのだ。精一杯強がって見せるのだ。


それなのに、死ぬ直前になってやっと命を請う。

この態度が、男が一番に嫌っている人間の性格だった。


貪欲で、自尊心が高くて、見苦しい。




心底吐き気がしそうだ。








「ごめんね。ナイフは血で切れ味鈍ってるから










素手でやるね。」






一歩、力を込めて踏みしめ、地面を蹴る。

目の前ではっきりと見える表情は、その目に何色も、ましてや恐怖さえも映していなかった。

その華奢な首を両手で包み込み、力を込める。




精々ポーカーフェイス保ってろ。












苦しんで死ね。











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