ア ヤ メ。
きっと自覚した途端恐怖が込み上げてくるだろう。
いくら不動の精神で強がっても、死の恐怖の前では無意味だ。
皮肉を込めて、ちらりと少女に目線を投げた。
「ッ………!!」
笑っていた。
心底幸せだと言う様に。
目を細めて、口元を緩めて。
気持ち悪い。
なぜ恐怖を感じない?
お前の目の前に居るのは、ついさっき自分の取引相手の男を殺し、この路地裏を真っ赤に染めた殺人鬼だ。
それを理解もできない程に教育が足りていないのか?
男は理解ができなかった。
確かに暖かく柔らかい皮膚を持ったこの少女を。
まだ生きているというのに、殺されたいとでもいうのか。
「………殺されるのは?」
「怖い」
この少女の思考回路が分からない。
人一倍生に貪欲な男にとって想像も出来ない感情だった。
ただ一つ分かったのは、生きる世界が全く持って違うと言う事のみ。
その何も映さない眼から逃れるように視線を逸らした。
「つまらないね、君。
………いいや、殺さない」
そう言うと不意に瞳が揺らぐ。
何故だ。今まで何をしても、あまつさえ首を絞めても揺らがなかったその瞳が、何故死を逃れると正直に揺らぐ?
「待って!!………………殺して」
無意識に眉間に皺を寄せていた。
気持ち悪い。奇怪だ。
大抵の人間が恐れるはずの死を自ら望むこの少女が。
ただ死にたいなら自殺でもすれば良いではないか。それとも自殺をしない理由でもあるのだろうか。
……知りたくもないし、この人間は不気味だ。
だが、確かに興味は感じていた。