ア ヤ メ。
「……ふーん、いいよ。
ただし、お互い詮索はしない事が条件だ。」
少女はその真っ黒な目を男の目と合わせ、無機質な声で言う。
「分かった」
「意外と普通のマンションに住んでるんですね」
「まあね」
エレベーターに乗り込み、少しして降りる。
ポケットから鍵を取り出し、金属音を鳴らせた。
「あ、靴脱いで上がってね」
「……そのくらいの常識は身についています」
いちいち棘のある言い方をするこの少女は、僕が今まで出会ってきた女とはまるで違う。
「あ、お風呂とトイレは好きに使ってね。食費も俺が払うし。」
そう微笑みながら言うと、少しの沈黙が部屋を襲った。
「何のつもり?」
「育成ゲームってのも、面白そうだろ?」
そう言っても何も聞こえなかったかの様に、部屋の中を見渡しバスルームに向かう彼女。
彼女は、昔の僕とよく似ている。
でも、それだけではない。
何だろう………気持ち悪いなあ、死にたい人っていうのは。
昔、女が泊まりに来たときに忘れてった下着や服を取り出し、脱衣場に置く。
壁を一つ隔ててシャワーの水音を聞くのは久しぶりだった。
洗面所で顔を洗い、ガチガチに固めてある髪をグシャグシャと解く。
丁度顔をタオルケットで拭った時、ポケットに着信音が響いた。
しばしスマートフォンを見つめ、手に取る。
復讐とか、そんな類の奴らなのを期待する。
口の割にはあっけなく死んでいくんだよ。
その子供は親が死んだのを見て、また復讐に心を燃やす。
なんて美しいループだろうか。これぞ人間だと言う他無い。
「…もしもし」
「あ、キョウ?」
機械音に混じって聞こえてきたのは、主に海外の依頼で活動している殺し屋、カリンの声だった。
それなのに警察にも一切情報を漏らさない。
今まで一度も尻尾を掴ませたことさえ無いカリンは、相当の実力者だ。
「カリンか」
「そうそう、厄介な仕事引き受けちゃってさ
手伝う気ない?」
電話の向こうから男の叫び声が聞こえる。
仕事の最中か。
しばし迷っていると、グシャっという音に次いで、カリンの声がした。
「あ、勿論それなりの報酬は入るよ。まあ考えといて。なるべく早めに。
じゃね。」
一方的に切られて。機械音がしだす。
頭を抑え、少量の息を吐く。
薬箱からいつものシャブを取り出し、吸った。
裸足で廊下を歩く音が近付いてきて、ドアが開いた。
「麻薬………ですか」
「…………関係ないよね?」
少女はゆっくり瞬きをして、口を開いた。
これは忠告だ。
「とことん犯罪者なんですね」
なのに、この女は。
イライラする。
この女と話していると。
「少し黙れ。」
女を押し倒し、手首を撚る。
それでも真顔を崩すことは無い。
立ち上がってため息を吐き、顎でベッドルームを示した。
この女と居たら、冷静になれなくなる。
「僕はソファで寝るから、君はベッドで寝ると良い。」
そう言うと、お辞儀をしてから立ち去る。
気のせいか、今日はいつもより疲れた。