シンデレラは脅迫されて靴を履く
「本日の専務の予定は以上よ。なにか質問はあるかしら?」
「いえ!大丈夫です!
それにしてもさっきは凄かったですね~
私、怖くて動けなくなりそうでしたよ!先輩ずっとシカトするんですもん!」
そう興奮気味に話すのは、後輩の葉山美嘉ちゃん。
美嘉ちゃんと常務付秘書の浅野くんのトレーナーだった私に二人はなついてくれている。
「夢だと思いたかったのよ」
「そんな馬鹿な…」
本当に夢だと思いたかった。
あんな魔王のような男の秘書なんて。
「先輩、何か訳アリですね?」
「………」
美嘉ちゃんはニヤニヤしながらこちらを見てくる。
「副社長と寝ました?」
「…副社長とは寝てないわ」
あ。
「とは?!とはって言いましたね?!じゃあ誰と寝たんですか?!」
「『副社長』とは寝てないの」
私は資料を纏め、手帳を閉じて秘書室のミーティングスペースのガラスの扉を押し開ける。
「なんですか!その謎かけみたいなのーー!!」
美嘉ちゃんの叫び声を聞きながら自分のデスクに戻る。
副社長専属…
デスク、片付けないと…
社長専属秘書と副社長専属秘書には専用の秘書室が宛がわれる。副社長専属は常にそこにいるわけではないが、ある程度の荷物はそちらに移動しておかなければいけない。
社長専属秘書の秘書室は今は秘書室長室も兼ねられているので、室長はそちらにいることがほとんどだ。
「ま、ほとんどはこっちにいるんだからそんなに持ち物は必要ないわね!」
少しの書類とデータを持ち、秘書室をでる。
大丈夫よ、九条 深桜。
あなたは強い。そう、私は強いから大丈夫。
あんな男に屈したりしないんだから!