16の、ハネ。
「どうして、バドミントンを始めたの?」
静かな夜の街に、私の声はよく響いた。
陽人が、歩く足を止めた。
私も彼に合わせて止める。
私は陽人の方を振り向いて、「どうしたの?」と控えめに聞く。
しかし、陽人は私のことを見つめるだけで何も言わなかった。
しばらくの間、私たちは互いを見つめていた。
じっ、と見つめる陽人の焦げ茶色の瞳に吸い込まれそうになる。
陽人はどこか遠くを見つめているような感じがした。
もしかして、私、聞いちゃやばいこと言っちゃった?
「あ、の?」
私がオロオロしながら尋ねると、陽人はやっと私から目をそらした。
私がもう一度聞き返しても、陽人は曖昧に頷くだけで。
その沈黙は不思議な雰囲気に包まれていて。
しん、と静まり返った夜の街に私たちは閉じ込められたかのようだった。
冷たい北風が吹いて、「さぶっ」と私が声を漏らしたとき、ようやく陽人が我に返ったように反応した。
「んーや、何でもない。……で、バド始めたきっかけ? だっけ?」
「う、うん、そうだけど」
何かあるのは確かなはずなのに、全くそれを感じさせないような明るい声に迷いがあったのは気のせいか。いや、違う。たしかに陽人は無言の圧力をかけていた。
「いやぁ、話すと長くなるかもだけど平気か?」
何事もなかったかのような声。
だから私もそれに合わせた。
「平気。それに私が聞いたことなんだから、最後まで聞くに決まってるでしょ」
私の答えに、陽人は「ツンデレだなぁー」とクスクス笑った。「うるさい」と答えた私の声も、ほんのちょっぴり明るくなる。