16の、ハネ。
「あとは、最近、よくテレビとかによく出てるから有名だよ。この学校の名前を検索にかけたら一番最初に出てくる人じゃない?」
「そっ、そんなに有名人だったの!?」
確かに、健常者に混ざっても渡り合えるくらい上手かったし、強かったし、すごかったけど……。
「天久ちゃん。逆に聞くけど、知らないで絡んでたの?」
佐藤ちゃんが目を丸くして聞いてきた。無理もない。そんな有名人なら、ファンクラブ的なものがあってもおかしくはないし、陽人に近づく人は皆、それ目的のはずだ。それなのに私は……。
「知らないどころか、興味もなかった。……ていうか、ほんの数週間前に知り会ったばかりだし」
それに、と心の中で付け加える。
雪玉投げつけてきて、言い訳する奴だし。
言動とかガキっぽいし。
ちょっと常識外れだし。
「いやぁ、天久ちゃんって変わってるねぇ。だってあの人、女子の中じゃカッコいいってスゴイ叫ばれてるんだよ? バド部ファンの子なんて、彼氏にしたいって言ってるくらいだし」
変な誤解されたら修羅場間違いなしだね、と佐藤ちゃんは笑いながら言ったが、もし本当にそうなったら笑えない冗談である。現に、佐藤ちゃんに疑われかけたし。
「あのさ! あの人との間にはなーんにもないから! ただ、金曜日にあの人が通ってるサークルに知り合いがいて、その人繋がりであの人と会っただけ」
ちなみにこれは決して嘘ではない。「知り合いがいて」と「あの人と会った」の順序が真逆なこと以外は。…………つまり嘘だ。嘘つきは良くない。でも、嘘も方便。臨機応変に使うべきだ。
そんな感じで私が必死に弁解すると、佐藤ちゃんは苦笑した。
「わかってるよ。大丈夫。あいにく、嘘の噂を流す趣味はないよ」
「た、頼んだよ? 私は平穏に生きたいんだから」
「はいはい。……それじゃ、ウチはバス乗るからまたねー」
「あ、うん………………えっ」
ちょっと待って、と言おうとしたが時すでに遅く、佐藤ちゃんはバスに乗り込んでしまった。