16の、ハネ。



陽人は自分の自転車を持ってきて、「後ろ乗れよ」と勧めてきた。

「……いや、警察捕まるよ?」

未だに目を合わせられないが、そのくらいの軽口は叩けるくらいにはなった。

「田舎村に警察なんていねーよ」

陽人は笑いながら反論してきた。

その笑顔に少し救われる。


陽人は、私の過去も、真実も、きっと受け入れてくれる。

だって、そういう人だから。

まだ、君を知ってから日は浅いけど、わかる。

君は、真っ直ぐで、人のことを笑ったり貶したりしない。

時々臆病なところもあるんだけど、いつだって君の目線は前向きだ。



君を見るたびに。
君が私を助けてくれるたびに。



いつも、思ってしまう。




「私は君になりたかった」
……って。






「どした?」


かなり長い間、無言で立ち尽くしていたからだろう。陽人がこちらを覗いてきた。


「いや、その……」



言うか、言わないか、迷った。
だけどここで逃げたら、私は一生このままだ。


だから、私は顔を上げた。


「なんで、待っててくれたの?」


私はやっと陽人と目を合わせることができた。

陽人も、その問いに別段驚いた訳でもなさそうで、「そんなん決まってんじゃん」と即答した。



「あのままの音羽のこと、放って置いちゃダメだって思ったから」




……やっぱり、君は優しくて強い人だ。


「そっか」

ありがとう、とはあえて言わなかった。ここで言うべき言葉じゃないと思ったから。




私は陽人の自転車の後ろに腰かけた。

本当は、オシャレに横座りをしたかったんだけど、今の私にそんなバランス能力はない。

「ケツ痛いだろ、これ使えよ」

そう言ってヒョイっと、陽人はピンク色の座布団を渡してきた。

「これ、どうしたの?」

「妹の防災頭巾。小学校に潜入して、盗んできた」

「……悪ぅ〜」

自然と笑いがこぼれる。
きっと、誰かさんが隣にいるからかな。



「んじゃ、いくぞ」

陽人はペダルをグイッと漕ぎ始めた。

少しまくったズボンの下から、銀色に光る彼の足がのぞいている。


まだ辺りは明るくて、周りの目が痛かったけど、私は気にしないで陽人の背中にがっしりと捕まった。


今は、陽人の背中だけが、救いだった。




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