16の、ハネ。
*
陽人は自分の自転車を持ってきて、「後ろ乗れよ」と勧めてきた。
「……いや、警察捕まるよ?」
未だに目を合わせられないが、そのくらいの軽口は叩けるくらいにはなった。
「田舎村に警察なんていねーよ」
陽人は笑いながら反論してきた。
その笑顔に少し救われる。
陽人は、私の過去も、真実も、きっと受け入れてくれる。
だって、そういう人だから。
まだ、君を知ってから日は浅いけど、わかる。
君は、真っ直ぐで、人のことを笑ったり貶したりしない。
時々臆病なところもあるんだけど、いつだって君の目線は前向きだ。
君を見るたびに。
君が私を助けてくれるたびに。
いつも、思ってしまう。
「私は君になりたかった」
……って。
「どした?」
かなり長い間、無言で立ち尽くしていたからだろう。陽人がこちらを覗いてきた。
「いや、その……」
言うか、言わないか、迷った。
だけどここで逃げたら、私は一生このままだ。
だから、私は顔を上げた。
「なんで、待っててくれたの?」
私はやっと陽人と目を合わせることができた。
陽人も、その問いに別段驚いた訳でもなさそうで、「そんなん決まってんじゃん」と即答した。
「あのままの音羽のこと、放って置いちゃダメだって思ったから」
……やっぱり、君は優しくて強い人だ。
「そっか」
ありがとう、とはあえて言わなかった。ここで言うべき言葉じゃないと思ったから。
私は陽人の自転車の後ろに腰かけた。
本当は、オシャレに横座りをしたかったんだけど、今の私にそんなバランス能力はない。
「ケツ痛いだろ、これ使えよ」
そう言ってヒョイっと、陽人はピンク色の座布団を渡してきた。
「これ、どうしたの?」
「妹の防災頭巾。小学校に潜入して、盗んできた」
「……悪ぅ〜」
自然と笑いがこぼれる。
きっと、誰かさんが隣にいるからかな。
「んじゃ、いくぞ」
陽人はペダルをグイッと漕ぎ始めた。
少しまくったズボンの下から、銀色に光る彼の足がのぞいている。
まだ辺りは明るくて、周りの目が痛かったけど、私は気にしないで陽人の背中にがっしりと捕まった。
今は、陽人の背中だけが、救いだった。