16の、ハネ。


その触れる背中から、陽人の体温を感じる。じんわりとあったかい。

「陽人ー」

人の温もりに触れたからだろうか。
私の中に、いつのまにか安心感が宿っていた。

「ん?」

「さっきさ、『神奈川県唯一の村』って言ってたけど、そんなとこあんのー?」

「……さてはお前、小学生のときに勉強ちゃんとやらなかったな?」

「そっ、それはっ……!」


それは、私の過去の話に通じることだから追及するな!

……と言おうと思ったが、もちろん口には出さない。

「ったくぅ、世話の焼ける奴だぜ」

カチン、と来た。

その言葉は!
その言葉だけは、絶対に……!!

「陽人にだけは言われたくないんですけどー!」

ナッハハハ、という笑い声が前方から湧き上がる。

笑ったせいで力が抜けたのか、陽人はバランスを崩しかけた。

「うぉっと!?」「きゃっ!」

私たちは二人同時に叫んだ。

私は咄嗟に目を瞑り、陽人の体に抱きついた。躊躇なんかしてる場合ではない。

陽人はというと、なんとかブレーキをかけて持ちこたえた。

ふぅ、と安堵のため息を出してから、私はバシッとかなり強めに陽人の背中を叩いた。

「ちょっと、安全運転してよね!」

「仕方ねぇだろ、笑わせてきたのそっちなんだから」

「さっきのセリフに笑う要素なかったと思うんですが!?」

そこまで反論して……私は吹き出した。

「いや、ほんとに、私たちどうでもいいことで言い争うね? 無駄なエネルギーだわ」

陽人からも同意の相槌が来るかと思っていたが、彼の反応は私の予想とは違った。

「良かった」

「何が?」

「いつもの音羽だ」

……正直びっくりした。まだ、気を遣ってくれてたんだ、と。

陽人の底知れない優しさに、私は尊敬と感謝の眼差しを向けた。

「陽人のおかげかな」



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