16の、ハネ。


結局、気まずくなっていたのは私一人だけで、陽人自体は何も気にしていないようだった。

……こいつ、鈍いもんなぁ。


でも、こんな鈍いやつでも、ずっと想いを寄せ続けている子がいたりするのだ。

しかも、よりによって可愛い子。



あれ、でも奈津さんではないって、サークルのおじさん……山田さんが教えてくれたよね?




でも、いずれにしろ、陽人には思い人がいることには変わりない。



私の恋は、既に枯れてしまったもの。
だって、陽人はその子のことをずっとずっと追いかけているから。



自分で考えているだけなのに、そこで思わずため息が出てしまう。


でも、同時に諦めもついている。


私は、陽人に元気をあげられるような子にはなれっこない。
……って。



なーんて、私が想いを馳せていると陽人が「おーい」と私に話しかけてきた。
……だから、一瞬体制崩しかけるくらいなら、一々こっち見なくていいっつーの。



「もうすぐ着くぞ! その坂登ればすぐだ」

そう言われて、陽人が指した方を見ると……。

「……え、断崖絶壁?」

と、口に出さずにはいられないほど、目の前には長くて斜面のきつい坂が立ちはだかっていたのだ。


「ンなことねーよ。ちゃんと登れるぜ! 二人乗りは初めてだからわかんねぇけど」

またも陽人はケタケタと笑った。
いやいや、こっちとしては死活問題なんですけどっ!

「こ、怖いから、私ここで降りる!」

私は素早く自転車から降りようとする。

「チキン野郎め!」

「アンタに言われたかないわっ!」

「てか今動くなよ! あぶねーから!」

「おーろーしーてーくーだーさーいー!」

私がいつかのの陽人みたく、大声で駄々をこねると、陽人は小さく舌打ちをした。

「ったくしょーがねーなぁ!」


陽人が自転車のブレーキを踏む。


「ほら、降りてこのチャリ押してくれ」

「っるさいなー、わかってるよ!」


そう言いながら、私は陽人の自転車の背中をそっと押してあげた。



自転車はどんどん進んでいった。



まるで、私たちの意思など関係ないかのように。


私が止めようと思ったところで、止まらない時の流れのように……。







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