小悪魔カレシの甘い罰
なんだ、覚えてないんだ。
安堵と同時に寂しいような気持ちが、心に広がる。
寂しい? どうしてだろう。
会いたくなかったと、さっき思ったはずなのに。
「…いえ、初対面だと思います」
あの夜、私とキスしましたよね。
なんて、わざわざ上司に告げたところで、これからの仕事にいい影響があるとは思えない。
複雑な気持ちのまま、美桜はしらを切った。
「ほんと?」
しかし司は訝し気な顔つきで、距離を詰めて来た。
「あの…」
距離がまた近くなる。
数歩、後ずさりしたところで、背中に固い壁が当たった。
司は探るように目を細める。
涼し気な目元が、妖しく光り、どきりとした。
まるで嘘を見透かしているような視線。
息を飲んでいると、司の指が美桜に顎に触れた。
「……っ」