小悪魔カレシの甘い罰
親指の腹で、軽く唇をなぞられた気がした。
「君に何かした気がする」
囁きながら、美桜の唇を見つめている。
この唇に触れた気がすると、そう言いたいのだろうか。
核心もないのに、そんなことを言うなんて、なんて軟派な人だろう。
こんな思わせぶりなことを言われたら、大抵の女性はくらりときてしまうのではないか。
しかし。
「何かって、例えば何ですか」
飲まれちゃいけない。
この先、平和に仕事をしていくためにも。
この人は上司、そのことが美桜の理性を保っていた。
「たとえばって、そんなの」
司の口元がきゅっと上がる。
その皮肉めいた笑みが、美桜の心を掴んだ。
「喜ばせたか、泣かせたか。どっちかしかないだろう」
司のすっと瞳がしなる。
ひどく冷たくて、信じられないほどの色気を含んでいた。
さっきまでの自由奔放な、あどけなさは消え失せている。
喜ばせたか、泣かせたか
女性相手に、こんなことを平気で言う。
まるでそう対応するのが日常だというように。
司の二面性を目の当たりにして、背中がぞくりとなる。
今、目の前にいるのは、間違いなくあの夜自分とキスした相手だ。
その証拠に、心捕らわれて動けない。
「…どういう意味ですか」
絞りだす声がわずかに震えた気がした。
「知りたいの?」
「…っ」
顎に添えた司の手が、美桜の顔を持ち上げる。
すれすれに迫った唇。
驚いて目を見開いていると、司は楽し気に微笑んだ。